コロナ感染で涙の棄権をした夏の全国舞台に、越前ニューヒーローズが戻ってくる。6月4日、小浜市総合運動場で行われた第43回全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメント福井県予選の準決勝と決勝を制し、2年連続2回目の優勝を飾った。昨年は6年生が2人で、3年生と4年生もスタメン出場しながら全国8強入り(準々決勝を辞退)した"ミラクル軍団”が、今夏も東京で大暴れ!?
若くて青くない精鋭たち。コロナに消された“ミラクル”再び!
昨夏は6年生2人で全国出場も、コロナ感染により準々決勝を前に棄権。同月にチームを訪ねると、下級生たちが「6年生2人の分も、絶対に来年も神宮に行きます!」と宣言していた
新たな目標と誓い
昨年8月は東京で涙。それはしかし、敗北によるものではなかった。ファイトせずして戦地に背を向けざるをえなかった、ショックと無念からの突き上げだった。
「小学生の甲子園」とも言われる全国大会に初めてやってくるや、2つ勝って8強入り。準々決勝に向かう朝、チーム内での新型コロナウイルス感染が明らかとなり、「棄権」という結論が保護者の全体LINEを通じて選手個々に伝わったという。
その夏休みの終わりの夕刻にチームを訪ねると、選手も指導陣もすでに気持ちが切り替わっていた様子で明るかった。日本海を見下ろす高台の小学校で、低学年は効率的な基礎練習。高学年は中橋大地コーチの指導を受けながら、持ち前の打撃にそれぞれ磨きをかけていた。
正捕手の山本颯真主将は県大会2本塁打。抜群の身体能力で昨夏の全国では小フライを好捕する美技も
「コロナ感染は誰のせいでもないので仕方ない。ただ、全国まで来て最後の勝ち負けまでを子供らに味わわせてあげられんかったのが、悔しいですね」
田中智行監督が最も気に掛けたのは、学童野球最後の夏だった2人の6年生(当時)のこと。それでも、若いチームをけん引してきた最上級生2人は「僕たちはまだ公式戦で負けてないので、ろうきん杯(秋の県大会)で優勝してこのまま全勝で引退したい」と殊勝に語った。
新たな目標は準決勝、春江ドリームボーイ(優勝)に惜敗してクリアはならず。「6年生2人の分まで、自分たちも神宮(全国大会)に行って優勝したい!」と新たに誓い合ったという中橋開地(※選手紹介→こちら)ら新6年生たちが、まずはその出場権を手に入れた。
県大会で3試合に先発登板した中橋開地。昨夏は全国8強入りを決める逆転3ランも放っている
地区代表決定戦から県大会まで、予選6試合を勝ち抜いて前年に続く福井大会連覇。決勝は8対1の5回コールドという完勝だった。中学野球に進んでいる卒団生2人の保護者たちも、会場へ応援に来てくれていたという。
少ない人数ゆえに
「率直に言って、ホッとしました」と打ち明けたのは田中監督だ。「去年の6年生が卒団して新チームになったときから、『神宮(全国大会)を目指す!』と目標を立ててチーム内で公言してきましたから」。
その本気度は、これまでの県外遠征からも読み取れる。昨年の日本一・中条ブルーインパルス(石川)をはじめ、多賀少年野球クラブ(滋賀)、北名古屋ドリームス(愛知)と、同じく今夏の全国大会に出場する強豪と手合わせを重ねてきた。
「保護者の皆さんにもたいへんご協力をいだだいたおかげで、子供らはめちゃくちゃ成長しましたね。予想以上に伸びています」(同監督)
右大砲の米澤斗夢は県大会3本塁打。昨夏の全国では満塁アーチも放っている(写真)
全国区の強豪とは勝ったり負けたりをする中で、異口同音に称賛されたのが背番号10の正捕手・山本颯真主将だという。昨夏から不動の一番打者で、全国2試合で6打数4安打4打点で三塁打が2本、三盗も決めている。「体は大きくないけど、肩も足もあって何でもできるタイプ」と評する指揮官は、勝ちゲームを締めるためにマウンドへも送る。
苦戦も予想された県大会のポイントとなる試合で、すべて先発した右腕・中橋は「100点以上のピッチングをしてくれました」と田中監督が最大級の評価。昨年から注目されている左の大砲だが、今年に入ってマウンドでも才覚を発揮。「カイジ(中橋)が投げているときは四死球の心配もないし、きっちりゲームをつくってくれる。総合力の高い投手です」(同監督)
中橋と肩を並べる大砲、右打ちの米澤斗夢は県大会でチーム最多の3本塁打。巨体にして器用で、守備では投手と捕手に内外野を確実にこなせるユーティリティーだ。「去年から中心の山本(颯)、カイジ、米澤はそれぞれ順調に伸びてきています」(同監督)
昨夏は3年生ながら全国でも九番・左翼で安打も放った島碧生。今年は「頼れる4年生」だ
今年も全学年で15人、うち6年生は5人と潤沢な戦力ではないものの、昨年は3年生にして平然とプレーしていた島碧生のように、下級生が萎縮していない。上級生が複数のポジションを守れるのも強みで、県大会では最終日を含めダブルヘッターを勝ち抜いてきた自信もある。手堅く守って、ストライクをどんどん打っていくスタイルは、伝統となりつつあるようだ。
若いのに青くないチームが、昨夏に続く「ミラクル」を全国で演じるか。そしてどのようなフィナーレを迎えるのか。田中監督の意気込みはこうだ。
「去年はベスト8で出場を辞退する形になってしまいましたので、その分まで今年は最後までやり切って、去年を超えたいと思います」
(大久保克哉)